「24」と対テロ戦争

いま全世界で話題になっている米国のテレビシリーズ「24」(トゥエンティ・フォー)は、病みつきになる面白さだ。

国防総省の対テロ機関CTUの捜査官ジャック・バウアーが、イスラム系テロ組織や、セルビア系テロリストと死闘を演じる。

脚本が充実しているので、へたな劇場用映画よりもスリルがあり、次の展開を知るために夜更かしして、テレビの前に釘付けになる。

米国を襲うテロ組織は、アル・カイダよりも強力で、核爆弾をロサンゼルスで爆発させようとしたり、原子力発電所を暴走させて炉心溶融を引き起こしたり、「ステルス」戦闘機を乗っ取って、大統領専用機を撃墜したりする。

このドラマに迫真性を与えているのは、同時多発テロ以降、米国が実際に対テロ戦争を繰り広げていることだ。

ドラマの中では、分析官の下に寄せられる大量の情報のために、テロリストに関する重要な情報を収めたCD・ROMがファイルの山の中に埋もれて見落とされたり、米国政府が、中東の某国とテロ事件の関係について偽の情報をつかまされて、某国に侵攻しようとしたりするなど、事実に基づいたエピソードがちりばめられている。

だが「24」には、手放しで歓迎できない側面もある。

このドラマには、「対テロ政策のために、国際法や人権が侵害されるのは、仕方がない」というメッセージがこめられているからだ。

米国のタカ派の間には、「大規模テロによって、何万人もの市民が殺される危険が迫っている時には、テロ容疑者を拷問するのも止むを得ない」と主張する人がいる。

米国の情報機関はテロ容疑者を、世界各地で令状もなしに逮捕して、中東の情報機関に引き渡して拷問をさせ、情報を引き出していると伝えられる。

悪名高いグアンタナモ収容所では、正真正銘のテロ容疑者が尋問されているだけではなく、アル・カイダ関係者という疑いを持たれただけで、無期限に拘束されているパキスタン人やアフガン人もいる。

「24」の主人公バウアーは、テロ容疑者を拷問するだけではなく、テロ組織と通じているという疑いを持った元同僚まで、「他に手段がない」として電気ショックで拷問する。

「数万人の命を救うためには、拷問は止むを得ない」という考え方が、視聴者の心の中に定着するのは、恐ろしい。

ヨーロッパでは、拷問はどのような場合にも禁止されており、裁判所は、拷問で得られた供述には、証拠能力を認めない。

「24」を放映しているのは、米国で最も保守的な放送局フォックス。

ブッシュ政権の対テロ戦争を最も前向きに報道し、愛国心をあおる内容の番組で知られる。

アクション映画のスリルに興奮するあまり、人権を無視する米国の対テロ戦略で、頭の中を汚染されないように注意したいと思っている。

(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

保険毎日新聞 2006年12月